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玖珠町 久留島 武彦

大分見聞録 この記事は約 5 分で読めます。

◆児童文学者・教育家で大分県玖珠郡森町(現・玖珠町)に明治七年(一八七四年)六月十九日誕生。昭和三五年(一九六〇年)六月二七日没。(享年八六歳)

「継続は力なり」という言葉がありますが、おそらく多くの人が、この言葉をそれぞれの人生の中で、親や恩師から諭されたことがあるか、または自身の座右の銘として据えていることでしょう。しかし、この言葉は知ってはいるが、久留島武彦(以下、久留島)の名は知らず、ということが往々にしてあると思われます。 この言葉の謂れと久留島の関連については後述するとして、ひとまず久留島の出自を紐解きましょう。

久留島は明治の初め、村上水軍の一族である久留島家(祖父は森藩九代の藩主・久留島通容)に生まれ、自然豊かな玖珠町で育ち、少年の頃の夢は牧畜をすることだったそうです。

一八八七年、大分中学(現・大分県立大分上野丘高等学校)に入学。久留島はそこで英語教師をしていたアメリカ人宣教師のS・H・ウェンライトと運命的な出会いをします。ウェンライト氏に英語や、キリスト教を学ぶ中、将来牧畜をしたい夢を語ると、「牛や馬を育てるより、人間を育てる人になりなさい」と氏に諭され、日曜学校で子供たちにお話を語る楽しさも背中を押したのでしょうか、児童教育を志すことになります。その後クリスチャンとなり、ウェンライト氏の転勤と共に氏についていき関西学院に転校し、同校を卒業するに至りました。

久留島は(一八九三年)一九歳の時神戸美以教会日曜学校の校長に任命され、これを機に教育という領域に取り組むことになったのです。ところがこのようにキリスト教に関わるようになり日本基督教の機関誌「福音新報」の編集に内定したやさきの一八九四年、日清戦争が勃発。出兵することとなります。失意のうちに近衛師団歩兵第一連隊に入隊するも、ほどなく講和となり、久留島は再びペンを執ることに…。

近衛師団の新兵をもじり「尾上新兵衛」という筆名で書いた兵隊物語を、児童文学を開拓していた巌谷小波が主筆していた『少年世界』に連載。その縁でグリム童話の翻訳や創作童話を発表、ここから児童文学に足を踏み入れることになりました。

兵役義務が終わり、除隊後、家庭を持ちましたが、就職先がことごとく倒産。経済的に逼迫するなかで資金がかさむ本に捕らわれず、口頭で童話を語り聞かせる「口演童話」を考案。明治三六年(一九〇七年)東京での口演童話会を皮切りに日本全国のみならず、満州、朝鮮など海外にまで活動を広げました。

こうした久留島の活動は早蕨幼稚園の設立から、多くのアンデルセンの作品を翻訳し日本中に広めるなど多岐にわたり、この紙面では紹介しきれないほどの多大な児童文化への功績、貢献を遺しています。

その功績のひとつであるボーイスカウトを日本に紹介した明治四四年(一九一一年)、アメリカ視察旅行の際、再会したアメリカ人の知人の言葉「考えは力なり」に触発され「どんなに良い考えでも、継続しなければ役に立たない」と思索を深め、文頭の「継続は力なり」という言葉を生み出したといわれています。その言葉の通り、久留島は八〇歳を過ぎても口演行脚を続け、この貢献が称えられ、昭和三三年(一九五八年)紫綬褒章を受章しています。久留島の功績を表敬し「子どもと夢を!」をテーマに毎年こどもの日に開催される「日本童話祭」も回を重ねて今年で七〇回目を数えました。

「信じ合うこと」、「助け合うこと」、「違いを認め合うこと」。人が人として共に生きて行くために必要な教え。 久留島精神は永遠に絶えることなく次世代へ続いていくでしょう。

空気を読む、自己責任、どっちもどっち…。などと何かにつけ「取りつく島のない」こんな言葉が飛び交う昨今。足りない何かを久留島が教えてくれていることに気がついたのは私だけでしょうか…。

 

注釈 *1村上水軍:またの名を「村上海賊」。瀬戸内海の中でも数多くの島が点在し、潮流が渦巻く芸予諸島で活動し、海上交通の要所を支配。水先案内人の派遣や海上警護などを行い、海の安全を守る “海の大名”と呼ばれたこともあり、独特の海城が現在も残っている。 *2巌谷小波: いわや さざなみ:児童文学者・俳人。東京出身。明治3年6月6日~昭和8年9月5日 享年63歳。尾崎紅葉らの同人として小説「初紅葉」「妹背貝」「秋の蝶」などを発表、明治24年創作童話「こがね丸」を発表し新生面を開いた。「少年世界」の主筆として数々の少年文学・おとぎ話を執筆。 *3早蕨幼稚園: さわらびようちえん:1915年東京都に設立。児童心理の研究のために、常に子供の目線で接触 できる機関としての側面があったともされている。  写真キャプション 久留島 武彦 (60歳当時) 肖像 ■久留島武彦記念館/2017年4月28日開館。資料約2千点を展示し、映像や音声、人形劇といった工夫で子供から大人まで久留島の世界を身近に楽しみながら学ぶことができます。写真は館内のウェルカムボードで、等身大に描かれた久留島が出迎えてくれます。

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