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竹田市 佐藤義美

大分見聞録 この記事は約 4 分で読めます。

童謡作詞家 童話作家 詩人 一九〇五年(明治三十八年)一月二十日~一九六八年(昭和四三年)十二月十六日 享年六十三歳

「まいごのまいごの仔猫ちゃん♪」幼い頃、誰もが一度は歌ったり、聞いたりしたことがあるでしょう。今も保育園や、幼稚園で人気の童謡「いぬのおまわりさん」(作曲はこどものための作曲をライフワークとした大中 恩)です。しかし、この童謡の作詞家が、ふるさと大分県出身の「佐藤 義美」(以下、佐藤)であることは意外と知られていないのではないでしょうか?

佐藤は明治三十八年、竹田市狭田に父、平太郎、母、キツの長男として生まれました。十五歳のとき、父の仕事の関係で横浜に転居。この頃から詩や童謡を書き始めます。東京に転居後、十九歳の時「赤い鳥」などに投稿を始め、早稲田大学第二校等学院に入学。同級生の、石川達三、新庄嘉章らと同人雑誌を創刊するなど精力的に活動を始めました。早稲田大学国文科在学中、初期の童謡代表作とされている「月の光」を「赤い鳥」に発表。

「コドモノクニ」等からも、童謡原稿を依頼されるようになり、童謡作家として頭角を現しました。 早稲田大学大学院修了後、国語の教師として教鞭をとりながら本格的に童謡の作詞と詩に取り組み、昭和九年には詩集「存在」を出版しました。昭和十六年教師を辞め、日本出版文化協会児童出版課に勤務し、この頃から童話を書き始めたのです。

ちなみに冒頭の「いぬのおまわりさん」は昭和三十六年に初めてNHKの「うたのえほん」で採用され、後続番組の「おかあさんといっ しょ」でも定番曲として流されました。 佐藤は六十三歳の生涯を終えるまで、三千編を越える作品を残したとされ、その情熱、哲学は弟子である童話作家の稗田宰子氏(故人)に引き継がれました。

稗田氏は佐藤が晩年を過ごした神奈川県逗子の仕事場を自費で再現し建物及び、所蔵品を竹田市に寄贈しました。 実は今、記念館が建つ場所は屠殺場の跡地でした。これに稗田氏が難色を示すのではないか、という心配の声もありましたが、「命の問題はこども文学にとっても大切な命題」と快諾されたのです。 勝手な解釈ではありますが、生きる物全てを慈しみ、思いやる「愛」が中心にあるという、師匠である佐藤の思いを引き継いだ稗田氏の崇高な志に頭がさがります。

また、佐藤、稗田両氏の意志を継承する「竹田よしみ会」の方々が「佐藤義美記念館」を運営。様々なかたちで、おふたりの思いを具現化発展に努められております。 晩年の佐藤は、原爆に反対する童話を構想しており、蔵書のなかに井伏鱒二の「黒い雨」などの原爆資料があります。佐藤の作品のひとつ、「ピカドン!自分に」という作品を読んだ私の知人が「ここには復習の論理が渦巻いている」と感想を語りましたが、逆に言うと、それほどまでにすさまじい怒りが内在しているわけで、これは単なる子供向けの童話ではないとも言えるでしょう。

また、「ひらひらはなびら」という詩は無邪気な子供の頃のワンシーンの描写に思えますが、手のひらに舞い降りた花びらをプーっと吹いたところでもとの枝には戻らず、ただむなしく地面に落ちるだけ。少し物悲しいですが、世の中には失われた物は二度ともとには 戻らないという現実もあるということを教えてくれているような、我々大人こそ観賞すべき作品だなと感じました。 「かつては大人も子供だった、大人も子供も、本当に考えなければならない事は同じなのだ」子供の未来に「ツケ」を回してはいけない。佐藤に叱咤されているような気がします。

注釈 ※1大中 恩:おおなかめぐみ1982年「現代こどものうた秀作選・大中恩選集」で日本童謡大賞を受賞する。「童謡だからといって安易な曲作りはしない」といった厳しい姿勢を貫いた。 ※2赤い鳥:鈴木三重吉が創刊した童話と童謡の児童雑誌。1936年8月廃刊。日本の近代児童文学・児童音楽の創世記に最も重要な影響を与えた。 ※3コドモノクニ1922年1月から1944年3月にかけて東京社(現ハースト夫人画報社)から出版されていた児童雑誌。大正時代を代表する絵雑誌。芸術性、デザイン性を重視した作りは子供向けという範疇を越えて新たな芸術総合雑誌と評された。 ※4いぬのおまわりさん:他にもいぬのおまわりさんは、2007年に日本の歌百選に選出されている(文化庁・日本PTA全国協議会選定)。 ※5広島での被曝をテーマにした小説。 ※6びわの実学校:28-童話雑誌-坪田譲治・編/びわの実文庫1968年に掲載の原爆関連のストーリー。 ■写真キャプション 佐藤義美肖像 ■佐藤義美記念館内部

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