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竹田市 田能村竹田

大分見聞録 この記事は約 4 分で読めます。

◆南画(文人画)家。大分県竹田市出身、安永六年(一七七七)七月一四日生まれ。天保六年(一八三五年)十月二十日没。(享年五九歳)

竹田市と言えば岡城。岡城と言えば瀧廉太郎と、シンボリックな連想する人は少なくないと思います。竹田市は多くの偉人・先哲を輩出していることで知られていますが、その中の一人の「画聖 田能村竹田」(以下、竹田)も忘れてはならないでしょう。

「音楽」という、音が媒介する瀧の「動的」な世界。かたや竹田の世界は「豊後南画」という物理的には「静的」な世界。両者はある意味対極にあるように思えますが、誰もが竹田の描いたその優美な線に、穏やかな筆の「動き」をイメージできるかと思います。その「動き」を根底で支えていたものは、おそらく竹田の内なる「心」であったろうと私見します。後述しますが、竹田が遺した名言にそのことがあらわれているように思えるからです。

竹田は江戸後期の安永六年(一七七七年)に、現竹田市、藩侍医田能村碩庵の次男として生まれました。六歳で素読を始め、十一歳で藩校由学館に入学。成績は優秀で、特に詩の才能を高く評価されていたと言われています。一八歳のとき母と兄を亡くし、医業に携わりましたが、辞めて学問に専念し、二二歳の時「豊後国志」の編纂に参画し、由学館の頭取へと進みました。

ちなみに、二十歳ころから地元画家に画を学び始め、江戸の谷文晁にも指導を受けていたそうです。また、眼病治療のため訪れた京都でも、多くの文人墨客との交流を深めたといわれています。

文化八年・九年の出来事が竹田の人生を大きく変える節目となります。この両年に岡藩で百姓一揆が起こり、竹田は農民救済、学問振興を含めた藩政改革の建白書を二度に渡って提出しましたが、受け入れられず、よって官を辞すこととしました。竹田の心優しく高潔な人柄が偲ばれるエピソードです。

これを機に文化一〇年、隠居。岡藩を拠点に各地へ旅を繰り返し、頼山陽ら、京、大阪、江戸と当時の文墨界の中心人物達と交流しながら、まさに詩書画三絶の境地を歩み、優れた詩文のみならず、花卉・花鳥画を描き、独自の山水画にも取り組んでいきました。

著作家としても数々の著書を遺した竹田ですが、とりわけ画論として有名な「山中人饒舌」の中に「筆を用いて工みならざるを患えず、精神の到らざるを患う」という一節があります。「筆をうまくつかいこなせないことが辛いのではない、心が到っていないことが辛いのだ。」つまり技巧より精神の充実、それは先人を模倣する従来の職人的画風とは異なるもので、学問を根底に置き、深い芸術的精神を持ちつつ本質を理解し、こびることなく自分が見た物、感じた物を描くという、まさに「自分の心で創作する」画風をめざしたようです。

表面上の上手さより一本の描線、一滴の墨に命が宿っている事を重んじる。この竹田独自の画境が弟子の帆足杏雨、田能村直入に受け継がれ「豊後南画」として開花していったのでしょう。  田能村竹田、享年五九歳。旅先の大坂で詩書画三絶に捧げた人生を閉じたということです。

ちなみに竹田は重要文化財に指定されている「四季花鳥図」をはじめ、数多くの作品を遺していますが現在、大分市美術館、竹田市歴史資料館、出光美術館、そのほか日本各地の美術館・博物館に所蔵されています。

竹田の画の前に佇むと、その凛として清らかで気品漂う画風に、思わず息をのんでしまうのですが、ろくに書物も読まず、古人の心も学ばず、俗な精神で本質も知らず、口先だけで生きている自分という存在を思い知らされてしまうのは、私だけでしょうか。

 

注釈 *1素読:特に漢文で、内容の理解は二の次にして、文字だけを声に出して読むこと。 *2豊後国志:幕命により豊後国(大分県)全域にわたる地理、歴史や産物等について総合的にまとめた漢文で書かれた地誌。 *3谷文晁:元・明・清画や狩野派・土佐派・文人画等の諸画法を折衷した新画風を創造し、江戸文人画壇の重鎮とされる。 *4詩書画三絶:「詩」と「書」と「画」は密接な関係があり、切り離せないものであるという中国伝来の思想でこの三つが融合し、一つの世界を表現することを理想とした。 写真キャプション 淵野香斎《田能村竹田像》大分市美術館蔵 ■旧竹田荘(国指定史跡)/竹田市街地を見下ろす高台に佇む田能村竹田の生家。二階建ての母屋と茶室、それに弟子の田能村直入、帆足杏雨などが学んだ補拙盧(ほせつろ)などが当時のままの姿で残っている。

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